私はタイでリサイクルショップ『TAMAYA』を運営しています。2023年にリサイクルリンクの子会社として現地法人を設立し、現在では会社の代表として、店舗運営だけでなく経理から経営まですべてを管理しています。
タイに来る前はカンボジアでリサイクルショップの立ち上げに携わり、海外勤務は今年で7年目になりました。
私は本田さんが立ち上げたカンボジアのリサイクルショップを引き継ぐ形で、プノンペン近郊の3店舗の運営管理をしています。基本的には接客業は行わず、現地採用の店長やスタッフからのヒアリングを通じて店舗運営を統括したり、日本からの輸入商品を管理したりしています。
私も若狭さんも現地の言葉を話せないので、基本的に店頭でお客様を接客することはなくて、店長や担当者とは英語でコミュニケーションを取り、ショップでの販売は現地のスタッフに一任している状態です。
法人化したばかりのタイの会社が軌道に乗るまではやらなくてはいけないことが山積みなので、日本に戻ってくるのは年に数日だけで、普段はずっとタイで暮らしています。
時々出張でカンボジアにも行きますが、タイとカンボジアは飛行機で1時間ほどの距離で、東京・大阪間のような感じなんです。
私はビザの関係で、現在はまだ1年のうちの半分をカンボジア、半分を日本で働いている状態です。だいたい1ヶ月ごとにカンボジアと日本を行き来しています。
タイは経済的にも文化的にも大きな発展を遂げて、現在では東南アジアの中心となっている国です。タイの人たちは日本人のように何でも新品で買い揃えるわけではなく、日本の中古品に対するニーズがとても高いことは意外でした。
バンコクには日本の飲食店やアニメショップがたくさんあり、旅行で日本に行ったことがある人も多いそうです。タイの人たちはみんな日本のことをとてもよく知っています。一流ブランドだけでなく、それほど有名ではないメーカーの名前まで知っているので驚きます。
私にとってカンボジアは初めての東南アジアで、しかも一人暮らしをするのも人生で初めてだったこともあり、当初はどんな国だろう…と不安が大きかったのですが、想像していたよりはずっと都会で安心しました。
カンボジアの人たちはタイのように誰もが日本の商品について詳しいわけではありませんが、カンボジア人にとって日本は経済成長期に橋や道路などのインフラを整備してくれた国なので、信頼されていることを実感します。
リサイクルリンクの株主である株式会社kurokawaがカンボジアで古着の現地法人を設立し、弊社でもそこにリユース家具などを卸すようになったことがきっかけで、東南アジアでより総合的なリユースショップを展開することになりました。
実は、カンボジアはリユース商品を輸出するのにとても条件が良い国なんです。というのも、カンボジアは自国に産業がほとんどないため、多くの日用品は輸入に頼っています。そのため関税がとても高く、安価な商品が手に入りにくい状況なので、リユース商品でも高値で売れるのです。
そして、タイは東南アジアの貿易のハブなので、情報も集まりやすく、物流面でもとても好条件です。
学生時代、当時JICAで働いていたクラブの先輩の縁で、春休みにカンボジアに行き貧困問題、ゴミ山、地雷、人身売買について知る機会がありました。
2007年頃のカンボジアは本当に何もなくて、今では当たり前になった高層ビルや舗装された道路もありませんでした。信号が街にひとつかふたつあるかないか…。
その時の経験から、いつかはカンボジアで働きたいという夢を持つようになりました。
私は小学校5年生の時に総合学習の授業で環境問題に興味を持ち、両親が英語を使う仕事をしていたこともあり、将来は海外で環境に関係した仕事を…とぼんやり考えていました。
そんな中、海外勤務ができそうな就職先を探していた時に、日本のリサイクルショップで本田さんと出会ったんです。当時はまだ本田さんも国内で働いていましたが、海外で働くことについて色々とお話をすることができて、この会社にしよう!と決心できました。
その頃私もなかなか海外勤務が実現せずに、もどかしい日々を過ごしていたんです。一時は転職も考えて、実はこっそり転職活動をして、業種はまったく違うカンボジアの会社に内定も貰っていました…。
それでも、何でもいいから海外で働きたいわけではなくて、やっぱりリユースの仕事に関わりたいと思い、国内で集荷やクレーム対応、店舗運営など、リユース事業に必要な経験を一通り学びながら、チャンスが来るのを待っていました。
そしてようやく海外勤務が実現したのは、リサイクルリンクに就職してから8年近く経ってからでした。
私もすぐに海外で働けたわけではなく、カンボジア行きが決まるまでに6年かかりました。その間、本田さんのもとでヤフオク担当として働きながら経験を積んでチャンスを待ちました。
なにせ社内でも前例の無いことだったので、みんな手探りだったんです。
まずは私が先陣を切って実績をつくり、そこで経験したことがそのままリサイクルリンクの海外事業になる、という覚悟がありました。
私の家族は反対も賛成もしませんでしたね。子どもの頃から自由に生きてきたこともあって、それなりに心配はしたでしょうけど、引き止められるようなことはありませんでした。
私はいざ海外勤務が決まると不安になって、両親に相談しました。
私の両親は結婚後にエジプトに住んでいたことがあり、当時の苦労話を母からたくさん聞いていたのですが、なかなか体験できることではないから挑戦してみたら?と背中を押してくれました。
そして何より、本田さんが先にカンボジアで働いているということが決め手になりました。
海外で働いているというと英語が堪能だと思われるでしょうけど、もともと英語はほとんど勉強したことがありませんでした。
ただ、リサイクルリンクに入社後、会社が海外からインターンを受け入れることになり、どういうわけか私が一人暮らししていたアパートでインターンのタイ人との共同生活が始まったんです…。
日常生活は私がカタコトの英語で、仕事の話をする時は彼女がカタコトの日本語で会話をして、半年間のその経験でずいぶん英語に馴染むことができました。正しい文法を勉強したわけではないのでテストを受けたら点を取れるか怪しいですが、海外勤務が決まってからは自分でオンラインの英会話のレッスンを受けたりして、今では仕事で現地の人と話す分には不自由のないレベルだと思います。
私は両親の影響もあり、小さい頃から英語が好きでした。小1から英会話教室に通っていたので言葉の心配はなかったんですけど、いざカンボジアに来てみると、日本の学校で勉強するような正しい文法の英語はむしろ通じなくて…。
カンボジアもタイも英語は第2外国語だから、難しい時制や複雑な敬語を使うと通じないことが多いんだよね。単語を原形で繋げるような話し方じゃないと会話が成立しない。
そうなんです!たぶん私、昔よりも英語がヘタになってます…。
言語が流暢に話せること自体よりも、大切なのは仕事の内容をしっかり理解しているかどうかだと思います。それさえ共有できていてれば、言葉は自然とついてきました。
ただし、私たちは現地のスタッフから仕事に対する不満や悩みなどを聞いたり、誤解がないようにコミュニケーションを取ったりしなくてはいけない立場なので、そのために必要な最低限の言語力はあった方がいいですね。
本当にそうですよね。言葉を喋れるからと言って仕事がスムーズにいくわけではなくて、私も時にはつたないクメール語(カンボジアの公用語)で感謝の気持ちを伝えるようにしています。どれだけ英語が上手でも、ニコリとも笑わない人は現地の人たちから信用されないと思います。
本田さんが築いてきたカンボジアの人たちとの信頼を壊さないように、常にお互いを気遣う気持ちを忘れずに接しています。
大切なのは向き合う気持ち。突然やって来た外国人の上司からあれやれ!これやれ!と言われたら、彼らだって良い気分では働けないですよ。私は今でも現地の人たちの中で「働かせてもらっている」という気持ちを忘れないように心がけています。
私はバンコク市内から道一本挟んだところにある郊外の住宅地で暮らしています。コンドミニアム(集合住宅)で共同のジムやプールが使えて、セキュリティもしっかりしているので安心です。
私はプノンペンの1号店から自転車で2〜3分のところでスタッフと共同生活をしています。キッチンや洗濯機などは共同ですが、私のように定期的に日本とカンボジアを行き来する生活だと、誰かが暮らしている家の方が何かと便利です。
タイもカンボジアも、最低限のことをしっかり守れば女性でも安全に暮らせます。夜は出歩かない、お酒を飲む店にはなるべく出入りしないなど、男性には誘惑が多くてなかなか難しいでしょうけど…そういう意味でも女性の方がむしろ海外勤務に向いているのかもしれません。
本田さんから話を聞いていたので、私も危険な場所に近づかないように気をつけて暮らしています。お酒も外では飲まずに、屋台でご飯を買って家に帰ってから晩酌しています。
必要以上に怖がる必要はありませんが、手に持っていた携帯電話を通りすがりのバイクに奪われそうになったこともあって、日本にいる時よりは多少は緊張感を持って生活しています。
2号店のスタッフから朝電話があって「隣の家で発砲事件があったので遅刻します」と…言われたときにはさすがに驚きましたが、私自身が危険な目に遭ったことは一度もありません。
タイ料理は日本でもよく食べていたので、タイの食生活にもすぐに慣れましたが、料理自体は同じでも、タイはとにかく辛い!そして飲み物が甘い!
1食だいたい300円程度でおいしいタイ料理を安く食べられます。日本食が食べたい時はスーパーで食材を買って自炊するのですが、新鮮な魚が手に入りにくいのが難点ですね…。
ただ、バンコクの市内にはスシローややよい軒など日本のチェーン店があるので、それほど不便はしていません。
カンボジア料理は煮込みやスープが多くて、甘くて酸っぱいのが特徴です。そして食事のときには必ずジャスミンティーを飲みます。材料は中華料理にも似ていて、空心菜や豆、生姜、そして川魚を使った料理が多いです。
そもそも考え方のバックグラウンドが全く違います。
例えばカンボジアでスタッフから「隣の家の誕生日パーティがあるから帰ります」と言われたときにはびっくりしました。日本では自分の家族の誕生日でも通用しない話ですからね。
業者さんも「今日は忙しいから来週行きます」なんてこともしばしば…。初めは面食らいましたが、彼らはただワガママを言っているわけではなくて、大切にしているものを優先しているだけなんです。日本人はプライベートよりも仕事の方が優先だと、暗黙の了解でそう考えているところがありますが、その常識が世界中どこでも通用するわけではありません。
その考え方の違いを客観的に認識できるようになると、気分が楽になりました。
日本にいると、毎日同じ部署で同じ景色を見ながら仕事をしている人たちと、同じ常識を共有しているのが当たり前ですが、カンボジアでは些細なことも「もしかすると認識が違うのかもしれない」と考える必要があります。
店頭に置く調理器具の話をしていた時に、花瓶を調理器具だと考える現地のスタッフがいたり…。こちらの当たり前を押し付けてばかりでは、お互いに理解し合えないということを学びました。
だから私は3店舗すべてになるべく顔を出すようにして、店長やスタッフと会話する時間を大切にしています。
一生海外で過ごそうとは思っていません。私はカンボジアで働きたいという夢を叶えることができて、現在ではタイで現地法人の代表としてまた新しい挑戦をしています。結局、場所はどこでもよくて、目標を持って、その夢を叶えることが大切だと思っています。
そして自分自身が20代の頃になかなか海外勤務を実現できなかった経験を踏まえて、若狭さんをはじめ、若い人たちがもっと海外で働きやすい環境を整えて、なるべく後輩たちにチャンスを譲りたいと思っています。
私も将来は日本に戻りたいと思っています。特に女性は30代になると結婚や出産などが控えているので、20代のうちに海外勤務を経験できるのが理想的かもしれませんね。
※文中の情報はすべて取材時(2024年8月17日)のものです。